呼吸器内科とは

呼吸器は、鼻もしくは口から空気を吸い込み、そこに含まれる酸素を肺胞で取り込み、二酸化炭素を体外へ排出するというサイクルに関係する器官を総称した呼び名になります。呼吸器は大きく上気道、下気道に分類されます。上気道は、鼻腔、口腔、咽頭、喉頭にあたる部分をいいます。一方の下気道は、気管や気管支、肺に至る部分が含まれます。
一般的には、上気道が耳鼻咽喉科、下気道が呼吸器内科の診療範囲となっています。ただ上気道と下気道が連動して起きる疾患というのも少なくありません。したがって、どちらが原因かよくわからないという場合も遠慮なくご受診ください。

呼吸器内科で
よくみられる症状

呼吸器内科で取り扱う
代表的な疾患

検査内容について

当診療科では、肺や気道(上気道も含む)などに何らかの異常がみられるという場合、これらの状態を観察するための画像検査(胸部X線撮影 等)を行います。また呼吸機能を調べる検査では、肺の換気能力を測定するスパイロメトリー、気道の炎症の程度を調べる呼気一酸化窒素濃度測定なども使用するなどして、総合的に判断し、診断をつけていきます。

呼吸器内科でよくみられる
主な疾患

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

主に喫煙や化学物質等の有害物質を長年にわたって吸入し続けることで、気管支(気道)や肺胞がダメージを受け続け、それによって何らかの呼吸障害が起きている状態を慢性閉塞性肺疾患(COPD)といいます。COPDは、これまで肺気腫、あるいは慢性気管支炎と呼ばれていた疾患をひとつにまとめた病名になります。
なおCOPDでは、肺胞は破壊された状態になります。これによって、本来の(肺胞の)働きである空気(酸素)を取り込んで、二酸化炭素を排出するガス交換の機能というのは低下していきます。ちなみに一度破壊されてしまった肺胞は元に戻ることはありません。
よくみられる症状は、慢性的な咳とそれに伴い痰も出やすくなります。また体を動かしている(労作時)と息切れや息苦しさも現れます。さらに病状が進行すれば、息が切れる等の症状は、安静時でもみられるようになります。上記以外にも、気管支に慢性的な炎症が起こることによる喘鳴、体重の減少、重症化すれば筋力が低下していきます。そのほかにも、肺炎や肺がんが併発しやすくなるということもあります。
COPDの診断をつける場合は、肺の状態を確認するための画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査)を行うほか、スパイロメトリー(肺活量 等の測定を行う)などの肺機能検査を行なうことで、発症の有無や重症度などを調べていきます。

治療について

治療をするにあたって、まずはこれ以上の病状を進行させないため、喫煙をされている患者様につきましては、速やかに禁煙を実践します。
そのうえで、できるだけ呼吸機能を悪化させないよう、薬物療法も行います。吸入による気管支拡張薬(β2刺激薬、抗コリン薬)が使われるほか、吸入ステロイド薬も用いられることがあります。
上記以外にも、呼吸が困難になった際の呼吸法や運動時に呼吸がしやすくなる方法などを学んでいく呼吸リハビリテーションも欠かさないようにします。
またCOPDが進行し、低酸素血症が起きるようになれば、次第に心不全などを引き起こすことにもなるので、酸素療法によって症状を改善させるようにしていきます。

気管支喘息

鼻あるいは口より吸入した空気を肺(肺胞)へ送るための通り道である気管(気道)が、左右の肺に分かれて肺胞まで送る部分のことを気管支といいます。この気管支などに慢性的な炎症が起きるなどして狭窄し、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーなどの呼吸音がする)が起きたり、少しの刺激でも咳が止まらなくなったりして息苦しい状態(喘息)などがみられているのが気管支喘息です。
発症の原因、いわゆる慢性的な炎症の原因は、アレルゲン(花粉、ハウスダスト、カビ 等)によるアレルギー症状、タバコや有害大気汚染物質の吸入のほか、風邪やインフルエンザ等のウイルス感染が引き金になることもあります。さらに運動やストレス、薬剤の影響、気候による寒暖差が激しい等もきっかけに挙げられています。
診断をつけるにあたって、重要とされているのが問診です。この場合、どのような症状かだけでなく、アレルギーの有無や家族歴などもお聞きします。さらに呼吸機能検査(スパイロメーター:息を思いっきり吸い込んで、力いっぱい吐き出す。その際の肺活量等を調べる)、血液検査(アレルギー体質の有無等を調べる)、気道可逆性試験(気管支拡張薬を吸入し、同検査前後で肺機能の状態を調べ、薬による効き目を調べる)なども行うことがあります。
検査に、呼気に含まれる一酸化窒素の濃度を測定(呼気NO検査)することで「喘息(ぜんそく)の有無」を診断する検査です。
「喘息と診断されたことがない」「よく聞く喘息の症状もない」という状態でも、実は「喘息(ぜんそく)」だったということもあります。これを「隠れ(かくれ)喘息」と言います。
呼気NO検査は2013年より保険適用となり、大阪府内ではこの検査ができる医療機関はまだ少なく、喘息を数値で見ていきます。喫煙者は低い値になったり、咳喘息、アレルギー性鼻炎の方は高い値になります。これらを喘息の診断に考慮し、薬の効果、評価もできます。

治療について

気管支喘息には、喘息発作が始まった際に症状を抑制させる治療(リリーバー)と、発作の原因となる気管支の炎症を抑えていくための治療(コントローラー)の2種類があります。
リリーバー、いわゆる喘息発作を抑えるための治療としては、気管支を素早く拡張させる効果があるとされる、短時間作用型β2刺激薬(SABA)が使用されるほか、炎症を抑えられる効果が期待できる経口ステロイド薬を内服することもあります。
また同発作を起きにくくするコントローラーによる治療では、吸入ステロイド薬(ICS)による治療が中心となります。さらに気管支を広げる効果が長く持続するとされる長時間作用型β2刺激薬(LABA)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)、アレルギーに対して効果があるとされるロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)なども使用されます。

咳喘息

気道に慢性的な炎症はみられますが、喘息のように喘鳴や呼吸困難が起きることはありません。長引く咳(3週間以上)が特徴的で、乾いた咳が持続します。痰については、ほとんど出ることはありません。ただ喉などに炎症があるので、少しの刺激でも咳は出やすくなります。
発症の原因は、アレルギー(ダニ、ハウスダスト、花粉、食物 等)の場合もあれば、風邪、タバコの煙、冷たい空気、過労・ストレスなども引き金になります。
治療に関してですが、主に吸入ステロイド薬を使用し、炎症を抑制していきます。また気道を広げる効果などがある気管支拡張薬なども用いることがあります。

アトピー咳嗽

咳喘息と同様に慢性的に気道の炎症がみられ、乾いた咳が長引きます。喘息のように息苦しいとか、喘鳴がみられることはありません。咳以外の症状としては、喉がむずがゆい、イガイガする等の違和感が出ることもあります。
咳自体は、身体に異物が入ったとされる場合に素早く体外へ排出する防御反応のひとつです。ただ、気道に慢性的な炎症が起きているため、必要以上に敏感になってしまっているので、少しの刺激でも咳が出続けてしまいます。夜明けや早朝の時間帯などに咳が出やすいという特徴もあります。
発症の原因ですが、アレルギー体質の方に起きやすいとされ、アレルギー性鼻炎や花粉症、アトピー性皮膚炎の患者様などに罹患しやすい傾向があります。
治療に関してですが、アレルギー反応を抑制するための薬物療法として、抗ヒスタミン薬などが使われます。また気道の炎症に対しては、吸入ステロイド薬が用いられることもあります。また原因となるアレルゲン(ハウスダスト、花粉 等)が判明している場合は、それを除去する環境を整えることも大切です。

非結核性抗酸菌症(MAC)

結核菌以外の抗酸菌に感染し、発症している状態にあるのが非結核性抗酸菌症です。そもそも非結核性抗酸菌は、自然界に存在する細菌の一種で土や水などにも存在しています。同疾患は人を介して感染することはなく、ホコリや水滴を吸い込むなどすることで感染するようになります。ちなみに非結核性抗酸菌症の発症原因の大半は、MAC菌によるもので、同菌が肺で感染を引き起こしていると肺MAC症と診断されます。
この非結核性抗酸菌症は、多くは肺で感染するようになります。よくみられる症状ですが、感染して間もなくは、無症状ということもあります。ただ病状が進行するようになれば、咳が慢性的に出続けたり、痰が絡んだりします(血痰が出ることもあります)。このほか、全身の倦怠感、息切れ、体重減少などもみられるようになります。
診断をつけるにあたっては、喀痰検査(抗酸菌の有無)や画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査)を行っていきます。
自然に治癒するのが難しい病気で、治療は長期間に至るようになります。多くの場合、抗菌薬による薬物療法となります。例えば、MAC菌が原因であれば、3種類の抗菌薬(クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール)を服用していきます。
薬物療法では効果が乏しいと判断されると手術による外科的治療が選択される場合もあります。

肺癌

肺に発生した癌(がん)のことです。この場合、肺胞や気管支などの細胞が異常増殖するなどして形成された悪性腫瘍をいいます(原発性肺がん)。厚労省が公表している「2023年の人口動態統計(確定数)」によれば、日本人のがんによる死亡者数を部位別で見ると、肺がんは、男性が1位、女性が2位となっています。喫煙者は、吸わない方と比較すると発症リスクは約4倍といわれています。
発症の原因ですが、喫煙以外では、遺伝的要因、大気汚染、アスベストなどの有害物質の吸引なども挙げられます。発症初期は症状が出にくく、病状が進行すると、咳が長引く、血痰、息切れ、胸痛、体重減少、嗄声(声がれ)などがみられるようになります。ただ自覚症状が出ている場合は、かなり病状が進行している状態でもあります。
肺がんは4種類あるとされています。具体的には、非小細胞肺がんの腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんと小細胞肺がんに分かれます。その中でも喫煙者によくみられるのが、小細胞肺がんと扁平上皮がんです。とくに前者は肺がんの中でも病状が進行しやすく、転移しやすいがんとしても知られています。
診断をつけるための検査としては、画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査)、喀痰細胞診(痰の中にがん細胞が含まれているか調べる)、気管支鏡検査(腫瘍の有無を調べるほか、腫瘍が疑われる組織の一部を採取)、血液検査などがあります。
治療に関しては、外科的治療、化学療法、放射線療法が行われます。初期の非小細胞肺がんであれば、手術療法(外科的治療)が選択されます。小細胞肺がんでは、化学療法(抗がん剤)や放射線療法が検討されます。

間質性肺炎(IP)

肺炎のひとつではありますが、間質(肺胞壁 等)の部分で炎症が起きるものです。それによって肺胞壁は肥厚するなどして線維化していきます。これが酸素を取り込みにくくさせ、ガス交換(酸素を取り込んで、二酸化炭素を排出)がうまくいかなくなります。このような状態になるのが間質性肺炎です。
発症の原因は、不明な場合もよく見受けられます。ただ、薬剤の影響、放射線、膠原病(自己免疫疾患)など、原因が判明していることもあります。
発症によって見受けられる症状としては、乾いた咳や息切れ、呼吸困難があります。なお病状が進行すると、安静時であっても息切れするようになります。また指先がふくらむなどする、ばち指がみられるのも特徴です。
血液検査で炎症の程度を確認、画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査 等)で肺の状態を見る、肺機能検査で病状の進行状態を調べるなどして、診断をつけていきます。
治療に関してですが、原因によって異なります。自己免疫疾患によるものであれば、免疫抑制薬やステロイドの投与などが行われます。また原因が特定できない間質性肺炎では、線維化を抑制するための薬物療法(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が用いられます。また薬剤の影響であれば、使用している薬を止める、あるいは変更するなどしていきます。
このほか、息苦しいなどの症状があれば酸素吸入(在宅酸素療法)が行われることもあります。

気胸

何らかの原因があって肺に穴が開いてしまい、それによって胸腔の部分に空気が入り込んでしまい、肺がしぼんでいる状態にあるのが気胸です。この場合、胸痛や背中に痛みがみられるほか、咳、呼吸困難(息苦しい)などの症状も現れるようになります。
発症の原因ですが、肺に何らかの疾患(COPD、肺気腫、肺結核 等)があって発症する続発性自然気胸のほか、健康な方で何の病気もない場合でも起きるケースがあります(原発性自然気胸)。また転倒や刺し傷によるケガ、手術などによって発症する外傷性気胸があります。このほか胸腔に漏れ出した空気が溜まっていき、肺や血管が圧迫されるようになるのが緊張性気胸で、この場合は速やかな対処が必要です。
気胸は、胸部X線撮影、胸部CTなどの画像診断によって、発症の有無や原因、重症度などを調べていきます。
治療に関してですが、軽度であれば、安静にするだけで自然に回復していくこともあります。ただある程度まで症状が進んでいるのであれば、胸腔の空気を取り除く必要があります。その場合は、胸腔ドレナージや胸腔穿刺によって空気を抜いていきます。なお気胸を繰り返す、重症化している場合は、手術療法が検討されます。

肺炎

肺で炎症が引き起こされている状態が肺炎です。原因としては、細菌(肺炎球菌 等)やウイルス(インフルエンザ 等)による病原体による感染がよくみられます。ただ上記以外にも、誤嚥をきっかけに口内の細菌が肺に入り込んで感染するケース(誤嚥性肺炎)などもあります。
発症することで、発熱、激しい咳(痰も伴う)、息苦しい、呼吸困難などの症状がみられるほか、胸痛、倦怠感、喉の痛み、喘鳴、意識障害などが現れることもあります。
なお発症の有無や症状の程度、原因を確かめる検査として、血液検査(炎症の程度等を調べる)、画像検査(胸部X線撮影、胸部CT 等)、喀痰培養検査(原因菌を特定する 等)などが行われます。
治療に関してですが、発症の原因が特定していれば、抗菌薬などを用いることがあります。また原因が不明、あるいは特効薬がないという場合は、咳止め、痰切り薬、解熱薬などの薬剤による対症療法によって、症状をやわらげていきます。
ちなみに肺炎は日本人の死因第5位となっていますが、そのうち9割以上の方が65歳以上の高齢者となっています。成人の肺炎では、肺炎球菌の感染による肺炎が多いことから、1回限定ですが、高齢者の肺炎球菌ワクチンは定期接種扱いになっています。対象となる方で、これまでに一度も23価の肺炎球菌ワクチンを接種したことがないという場合は、肺炎にできるだけ罹患しないための予防対策として予防接種をご検討ください。